小さな事業を始める前に、まず考えておきたいこと
「自分でも何か事業を始めてみたい」
そう考えたとき、すぐに開業届やホームページ、名刺などの準備を始めたくなるかもしれません。
しかし、その前に考えておきたいことがあります。
それは、
「何を、誰に、どのように提供する事業にするのか」
という、事業そのものについてです。
小さな事業では、使えるお金や時間、人手などに限りがあります。
だからこそ、最初から何でもできると考えるのではなく、自分にできることと世の中のニーズを見ながら、どこで事業として成り立たせるのかを考えていくことが大切です。
まず考えたいのは、「その事業にニーズがあるか」
事業を考えるとき、
- 何か新しいことをしなければならない
- まだ誰もやっていない事業を見つけなければならない
- 珍しい商品やサービスでなければならない
と考えてしまうことがあります。
しかし、小さな事業を始めるうえで、最初に考えたいのは新しさではありません。
その商品やサービスを必要としている人がいるのか。
まず、ここを見る必要があります。
現在の世の中に存在し、実際に商売として成り立っている事業は、それだけで一定のニーズがあることを示しています。
飲食店、美容室、修理業、清掃業、小売業、各種の代行サービスなど、昔からあるありふれた業種であっても、それらが今も存在しているのは、必要としている人がいるからです。
ですから、
「すでに誰かがやっているからダメ」
と考える必要はありません。
むしろ、
「すでに商売として成り立っているということは、そこにどんなニーズがあるのだろう」
と考えることが、事業を考える一つの出発点になります。
もちろん、世の中に存在している事業だからといって、自分が始めれば必ず成り立つわけではありません。
同じ業種でも、
- 地域
- お客さんの年齢や属性
- 価格
- サービス内容
- 提供する時間帯
- 競合する事業者の数
などによって状況は変わります。
大切なのは、単に「この商売は世の中にある」というところで止まらず、
「自分がやろうとしている場所や方法でも、本当に必要としてくれる人がいるのか」
まで考えることです。
「やりたいこと」だけで事業を決めない
事業を考えるとき、自分がやりたいことから考える方法もあります。
これまで仕事で経験してきたことや、持っている資格、得意なことから考える方法もあります。
どちらも大切です。
ただし、それだけで事業として成り立つとは限りません。
考えておきたいのは、
- 自分がやりたいこと
- 自分にできること
- お客さんから求められていること
この三つです。
自分がやりたくても、必要としている人がいなければ、事業として続けていくのは難しくなります。
反対に、大きな需要があっても、自分にできないことや、長く続けたいと思えない仕事では無理が出てきます。
そのため、
「やりたいこと・できること・求められていること」の重なるところを探していく。
これが、小さな事業を考えるときの基本の一つになります。
「何を売るか」だけでなく、「誰の何を解決するのか」を考える
事業を考えると、どうしても商品やサービスそのものに目が向きます。
しかし、その前に考えておきたいのが、
「誰の、どんな困りごとや要望に応えるのか」
ということです。
たとえば、同じ商品やサービスでも、誰に提供するかによって求められる内容は変わります。
そこで、次のようなことを考えてみます。
- 誰がお客さんになるのか
- その人は何に困っているのか
- 現在はどのような方法で解決しているのか
- その方法に不満や不便はないのか
- 自分なら何を提供できるのか
- その価値に対して、お金を払ってもらえるのか
商品やサービスは、事業者が売りたいから売れるわけではありません。
必要としている人がいて、その人にとって価値があるからこそ、商売になります。
どのような形で事業をするのか
同じ小さな事業でも、事業の形はさまざまです。
たとえば、
- 自分自身が技術やサービスを提供する
- 商品を仕入れて販売する
- 人に仕事をしてもらい、自分は全体を管理する
- 仕事を必要としている人同士を仲介する
- 仕組みをつくって収益を得る
といった方法があります。
自分一人で仕事をするのか、人を雇うのかによっても、必要なお金や管理する仕事は大きく変わります。
自分が直接仕事をする事業であれば、売上は自分の働ける時間に左右されやすくなります。
一方、人を雇ったり仕組みをつくったりすれば、事業を大きくできる可能性は広がりますが、人件費や管理、資金など別の負担も増えていきます。
どちらが正しいということではありません。
自分は、どのような形で事業をしたいのか。
これも、始める前に考えておきたいことです。
どのくらいの規模を目指すのか
事業を始めるからといって、必ずしも大きな会社を目指す必要はありません。
目指すところは人によって違います。
- 副業として一定の収入を得たい
- 自分一人が生活できる程度の収入を得たい
- 本業として安定した事業にしたい
- 人を雇って事業を広げたい
- 店舗を増やしていきたい
- 一人で無理なくできる範囲を維持したい
どこを目指すかによって、必要になる売上も、投資も、人員も変わります。
そのため、
「自分はこの事業を、どこまで大きくしたいのか」
ということも、最初の段階で一度考えておくとよいでしょう。
「小さく始めれば安心」とは限らない
事業を始めるとき、
「できるだけ小さく始めた方がいい」
と言われることがあります。
確かに、最初から大きな費用をかけず、試しながら始められる事業であれば、その方法は一つの考え方です。
しかし、すべての事業を小さく始められるわけではありません。
店舗が必要な仕事もあります。
機械や設備、車両などがなければ始められない仕事もあります。
仕入れにまとまったお金が必要になる事業もあります。
業種によっては、事業を始める時点で一定の投資が避けられないこともあります。
だからこそ大切なのは、
「できるだけお金をかけないこと」ではなく、「必要な投資とリスクを理解したうえで始めること」
です。
いくらまでなら、借金を抱えても続けられるのか
事業によっては、自己資金だけでは足りず、借入れをすることもあります。
そのとき、多くの場合は、
「いくら借りられるのか」
「毎月いくらなら返済できるのか」
という数字を考えます。
もちろん、返済能力を確認することは重要です。
しかし、それだけではないと思います。
事業を始める本人にとっては、
「自分はいくらまでの借金なら、不安なく毎日を過ごせるのか」
ということも考えておく必要があります。
同じ500万円の借入れでも、ほとんど気にせず事業に取り組める人もいれば、毎日のように返済のことが頭から離れなくなる人もいます。
数字上は返済できるとしても、その負担が大きな不安となり、事業そのものに集中できなくなってしまっては意味がありません。
事業のリスクに対する許容範囲は、人によって違います。
ですから、借入れを考えるときは、
- 返済できる金額か
- 売上が計画どおりにならなくても耐えられるか
- 生活費を確保できるか
- その借金を抱えても、精神的に無理なく生活できるか
というところまで考えておきたいものです。
事業を始めるということは、利益を得る可能性だけでなく、一定のリスクも自分で引き受けるということです。
だからこそ、始める前に十分に検討し、
「ここまでのリスクなら自分は引き受ける」
というところまで、自分なりに腹をくくっておく必要があります。
投資が少ないことにも、別の面がある
少ない資金で始められることは、大きなメリットです。
失敗した場合の金銭的な損失を抑えやすく、挑戦もしやすくなります。
一方で、少ない資金で誰でも始めやすい事業は、それだけ参入する人も多くなりやすいという面があります。
つまり、
「始めやすいこと」と「利益を出しやすいこと」は、必ずしも同じではありません。
また、大きなリターンを目指すのであれば、それに応じて資金だけでなく、時間、労力、人員などの投入が必要になることもあります。
もちろん、大きな投資をすれば必ず大きな利益が得られるわけではありません。
投資を増やせば、それだけ失敗した場合のリスクも大きくなります。
そのため、
「できるだけ投資を減らす」
「最初から大きく投資する」
という二択で考えるのではなく、
その事業でどの程度のリターンを目指し、そのために自分はどこまでの資金やリスクを引き受けられるのか。
そこを考えることが大切です。
計画は必要。でも、最初からすべて分かるわけではない
ここまで考えても、事業を始める前にすべてを正確に予測することはできません。
実際に始めてみれば、
- 思っていたお客さんとは違う人から依頼が来る
- 売れると思った商品が売れない
- 想定していなかったサービスが求められる
- 予定より経費がかかる
- 反対に、思っていたより簡単にできることが見つかる
といったこともあります。
だからといって、
「やってみなければ分からないのだから、考えても仕方がない」
ということではありません。
事前に考えられることは十分に考える。
必要な準備をする。
そのうえで、実際の反応を見ながら修正していく。
小さな事業では、この考え方が現実的です。
まず、紙に書き出してみる
事業を始めようと思ったら、いきなり細かな事業計画書を作る必要はありません。
まずは、次のようなことを自分なりに書き出してみるだけでも、考えが整理されます。
- 自分には何ができるのか
- 自分は何をやりたいのか
- 誰をお客さんにするのか
- その人は何に困っているのか
- 今、その困りごとはどのように解決されているのか
- 自分なら何を提供できるのか
- それにお金を払ってもらえそうか
- どのような形で事業をするのか
- どのくらいの規模を目指すのか
- 始めるために、いくら必要なのか
- どこまでの投資や借入れなら自分は受け入れられるのか
- 実際に始める前に確認できることはないか
一度書いてみると、
「まだ考えていなかったこと」
「調べなければならないこと」
「思っていたより現実的にできそうなこと」
などが見えてきます。
そして、事業の形がある程度見えてきたら、実際に事業計画書へ落とし込んでみるのも一つの方法です。
日本政策金融公庫では、新たに事業を始める人向けに「創業計画書」を公開しており、PDF・Excel形式の様式のほか、書き方を解説する動画なども用意されています。
融資を利用する予定がある人だけでなく、自分が考えている事業を具体的に整理する材料として、一度内容を確認してみてもよいでしょう。
事業を始めること自体が目的ではありません。
大切なのは、始めたあとに事業として続けていくことです。
そのためにも、まずは世の中のニーズを見て、自分にできること、やりたいこととの重なりを考える。
そして、必要な投資やリスクを確認し、
「この事業なら、自分はやっていく」
と思えるところまで考えてみる。
開業の具体的な準備を始めるのは、それからでも遅くありません。
